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何故「鬼滅の刃」(きめつのやいば)はここまでヒットしたのか。アニメのブレイクや原作の魅力

連載開始時は「不安視」されていた

「鬼滅の刃」とは2016年より週刊少年ジャンプで連載開始された、吾峠呼世晴による和風ファンタジー漫画です。

舞台は大正時代の日本。

主人公の少年・炭治郎が、一家惨殺を生き残ったものの鬼にされてしまった最愛の妹・禰豆子を人間に戻す為、鬼を討伐する鬼殺隊に入って旅を続ける姿を描いた本作は、2019年のアニメ化をきっかけに社会現象を巻き起こすほどの人気を博しました。

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2020年10月16日に劇場公開された「無限列車編」も動員数342万人を突破、興行収入は未曾有の46憶円を記録し、アニメ映画としてのみならず、今年上映された映画の中でも上位に食い込む快進撃を続けています。

ところが、「鬼滅の刃」はアニメが放映されるまでそれほど注目を浴びていませんでした。

「鬼滅の刃」の連載がスタートした2016年当時のジャンプには、既にアニメ化もされ好調な「ONE PIECE」や「僕のヒーローアカデミア」をはじめとする、押しも押されぬ人気作が揃っていました。

盤石の人気と世界的な知名度を誇るベテラン作家、および中堅作家が大半を占める週刊少年ジャンプにおいて、「鬼滅の刃」の滑り出しは決して好調とはいえませんでした。

ジャンプ作品らしからぬ暗さを孕んだシリアスな作風に注目する通なファンはいたものの、連載作の中では地味な立ち位置であり、ややマイナー扱いをされていました。

作者の吾峠呼世晴は本作が初連載。

2016年に「鬼滅の刃」のプロトタイプ「過狩り狩り」が、第70回JUMPトレジャー新人漫画賞の佳作をとってデビューしたばかりの新人であり、絵が上手いことを売りにできるとは残念ながら言えない状態でした。

戦闘シーンは動きが硬く粗削りで、技術面の未熟さを指摘する声もよく聞かれました。

日本画風の独特のタッチやシュールなギャグなど、ジャンプでは類を見ないセンスを評価する声は当時から存在しましたが、柱が集合するまでの前半部分は説明に割く尺が長く、ストーリーが停滞しがちだったせいで常に打ち切りが案じられ、ファンはやきもきしていました。

しかしそのような視線で見られていた作品も、アニメ化により一転することとなります。

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「鬼滅の刃」のアニメを手がけたufotableの魅力

ufotableは現在、最も勢いのあるアニメ制作スタジオです。

ufotable制作のアニメの最大の特徴は、なんといっても2Dと3Dが融合した美麗な作画。

「鬼滅の刃」の戦闘シーンに顕著ですが、鬼殺隊の隊士の技を浮世絵風の芸術的なタッチで描き、そこへ3Dの立体的な作画を組み合わせる技術によって、素晴らしい躍動感を生み出すことに成功しています。

2Dと3Dの合成アニメは不自然さを感じることも多いですが、「鬼滅の刃」における合成の完成度はずばぬけて高く、繋ぎがなめらかで視聴者にまったく違和感を抱かせません。

上のシーンをご覧いただければわかる通り、エフェクトの主線をあえて太くクッキリ描くことによって、この作品でしか到達し得ないオリジナリティ溢れる戦闘の表現を可能としました。

原作では炭治郎の心の声で逐一説明が挟まれる敵味方の技も、ダイナミックな映像表現として視覚から入ってくるので、アニメではより自然に視聴者に受け止められました。

撮影監督の寺尾優一と3D監督の西脇一樹は、原作ファンが「ここが好き」と推すビジュアルをアニメに落とし込むために表現を徹底的にブラッシュアップし、浮世絵風のルックにこだわりぬくなど数々の試行錯誤を重ねてきたと言及しています。

原作を軽視・改変するアニメ化作品が問題視される業界の風潮に反し、制作において一切の妥協を許さぬその姿勢には、原作および原作ファンへの多大なリスペクトがこめられていました。

このスタジオはいわゆる作画崩壊がないことでも有名で、原作付きアニメの場合はufotableが担当すると決定した時点で成功は約束されたと言わしめるまでに、視聴者の厚い信頼を獲得しています。

満場一致でufotableの代表作として挙げられるのは、奈須きのこ原作の「fateシリーズです。

歴史上の偉人を英霊として召喚し、彼らとタッグを組んで壮絶なバトルを繰り広げる魔術師たちの生き様を描いた物語は、その魂を揺さぶる脚本の熱量と現在の日本アニメ界のトップを牽引する圧巻の描写力でもって、視聴者を虜にしました。

「鬼滅の刃」に先駆けて封切られた「 Fate/stay night」の劇場版「Heaven’s Feel III. spring song」は、コロナの影響で一度公開が延期され、集客が深刻な打撃を受けたにも関わらず興行収入18億を突破。

三部作の合計興行収入は50憶に達しました。

「Heaven’s Feel」三部作すべてに足を運んだ熱心なファンも多く、コロナ禍にも負けず大健闘した背景には、客の期待値を裏切らずさらに超えていく映像美と、人間の欲や業や愛を描ききる、厚みを備えた物語を提示してきた実績がありました。

先述の「Fate」シリーズの大成功でアニメ業界において不動の地位を確立していた為、同じufotable制作の「鬼滅の刃」にも、「あそこがやるならとりあえず見てみるか」と、視聴者が流れた経緯が分母の確保に繋がりました。

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「鬼滅の刃」の社会現象化は、配信やコラボへの積極的な取り組みも関係している

「鬼滅の刃」は2019年4月から9月までTOKYO MXでテレビ放送されましたが、大手配信サイトであるNetflixやAmazonプライム、U‐NEXTなどでも視聴できました。

2019年のアニメ開始以降、Netflixの視聴ランキングトップ10から陥落した事はなく、現在は「無限列車編」の公開の影響もあってか、堂々トップに返り咲きました。

テレビ離れが進んだ昨今では、スマホやパソコンで好きな時に好きなスタイルでアニメを視聴する層の裾野が広がり、配信サイトの収益は主に彼らによって支えられています。

「鬼滅の刃」は大手配信サイトの殆どで視聴できるために、そちらから流入したファンが膨大に存在しました。

また、コラボへの積極的な取り組みも無視できません。

「鬼滅の刃」は数多くの店舗と提携して大々的なキャンペーンを実施しており、ローソンなどのコンビニ他、ドン・キホーテ、くら寿司などの大手外食チェーン、銀だこやお好み焼き道とん堀、はては極楽湯に東京ヴェルディや白十字まで、枚挙に暇がありません。

先日はなんとビックリマンチョコレートとのコラボが発表され、SNSを大いに沸かせました。

推しキャラのグッズをコンプリートしたいファンが箱買いしたり、コラボ実施中の全店舗を回るのを考えると、この戦略が大変な経済的利益をもたらすことは想像に難くありません。

ufotable Cafeでは夏祭りやお月見など、期間限定イベントを精力的に開催しており、SNSで実際のレポートを上げる人々も大勢見かけます。

様々な企画を考え、それをマーケティングし、「鬼滅の刃」を全力で後押しするufotableの姿勢が伝わってきますね。

原作が秘めたポテンシャル

技術面の未熟さを指摘しましたが、もちろん「鬼滅の刃」原作からアニメに引き継がれた長所もたくさんあります。
原作に魅力があったからこそ、アニメという着火剤によって大きな爆発力を魅せることができたのです。

「鬼滅の刃」は「週刊少年ジャンプ」掲載ですが、直情径行タイプが主流を占める少年漫画の主人公としては異例なほど、炭治郎が心優しくセンシティブな人物として描かれていました。

彼は戦闘中も、敵である鬼や仲間の隊士の心情にどっぷり入り込んでたびたび涙を流すのですが、その際に多用される詩情豊かなモノローグは、むしろ少女漫画のメソッドを彷彿とさせます。

炭治郎は自分がどんな過酷な状況におかれようと、相手の痛みや辛い境遇を想像し、どんな気持ちだったのだろうと思いやる優しさを忘れません。

これは作中で焦点のあたる登場人物すべての共通事項であり、作品の根底に流れる感傷的なロマンシチズムが、「鬼滅の刃」に単なるバトル物にとどまらない深みを持たせています。

彼らは修行や戦いの中でボロボロになっていく仲間を目の当たりにする都度、必ずやその過程の努力に想いを馳せ、内奥の痛みにまで分け入って共感しました。

それが読者にフィードバックすることで、私達は完全にキャラクターに乗っかり、今までの過酷な道のりや、凄まじい克己や努力の果てに得た仲間との絆の尊さを実感できるのです。

また、「鬼滅の刃」に登場する鬼たちの殆どは、同情に値する哀しい過去を秘めており、それが戦闘シーンの回想で明かされます。

鬼殺隊の面々からしてみれば家族や友を殺した憎むべき仇ですが、一方的に断罪・退治して勧善懲悪の正義の御旗を掲げはせず、時として彼らが抱える「鬼にならざるをえなかった」不幸な生い立ちや悲惨な境遇をも包容し、救済の慈悲を見せることでしみじみした余韻をもたらします。

鬼たちの哀しい過去には、時代背景から来る貧困や差別、偏見なども深く関わっていました。

無辜の人々を惨たらしく殺害した彼らの所業は到底許されざるもので、死後は報いを受けて地獄に落ちる運命が暗示されていますが、それはそれとして「鬼にならねば生きていくことすらできなかった」個々の背景を描きだし、ただ主人公や味方を引き立て退場するだけではない、喜怒哀楽の感情と痛みを備えたキャラクターとしての生き様と死に様を強烈に印象付けました

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「鬼滅の刃」のキャッチコピーとして有名な「日本一慈(やさ)しい鬼退治」とは、敵だから、悪だからと分け隔てず、1人の人間として彼らに向き合い理解に努めた、炭治郎の生来の真摯さや純粋さを指すものでした。

原作では柱1人1人の過去も丁寧に掘り下げられ、彼らが鬼を憎む理由や人間を守る理由に説得力を与えています。

さらに面白いのは鬼と隊士たちを結び付ける、入り組んだ因縁のドラマです。

原作のとあるキャラクターが仇として追いかけていた鬼が、別のキャラクターとも因縁があったとストーリー中で開示され、思いがけぬ接点にテンションが上がった読者も多くいました。

「鬼滅の刃」には、ラスボス・無惨に率いられた十二鬼月なる強大な鬼たちが登場しますが、そもそも鬼殺隊に狩られず長年逃げ延びている時点で必然個体数が限られてくるので、鬼殺隊の主要キャラが十二鬼月の同じ鬼に大事な人を殺されていた、という衝撃の真実が後に表舞台に出ます。

同じ仇を戴く彼らは、絶体絶命の状況下で共同戦線を組んで立ち向かったり、志半ばで散った仲間に復讐の遺志を託され覚醒したりと、全身全霊を賭して愛憎入り混じるドラマを見せてくれ、ただでさえ熱い展開ががぜん盛り上がります。

シリアスな作風に受け取られがちな「鬼滅の刃」ですが、炭治郎の同期で、コメディリリーフの善逸や伊之介が加入してからは、シュールなテンポのギャグも増えて読者の心を掴みました。

戦闘シーンもシリアス一辺倒というわけではなく、登場人物のノリツッコミなど絶妙な間でギャグを入れてきました。

これらのシーンはアニメでも音と動きを付与し再現されましたが、原作は漫画のコマ割りだからこそ生きる緩急や落としどころの巧みさで、読めば読むほどじわじわくる、とぼけた味わいを出していました。

ufotableによるアニメ化が爆発的ヒットに繋がったのは事実でしょうが、「鬼滅の刃」自体がもともと人々の琴線に響くポテンシャルを秘めていなければ、今日の成功に至らなかったのは言うまでもありません。

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まとめ

以上、「鬼滅の刃」がここまでヒットした理由をご紹介しました。

もとより原作にも根強いファンは付いていましたが、その魅力を何十倍にも底上げして世間に広めたのは、素晴らしい作品を世に送り出してきたufotableのブランド力と、コラボへの積極的な取り組みに代表されるマーケティングの上手さに起因するのでしょうね。

連載完結後も目が離せない、「鬼滅の刃」の今後の動向が楽しみです。

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