「ツイステッドワンダーランド」が女性にヒットした理由[ツイステ]
「ツイステッドワンダーランド」とはアニプレックスとウォルト・ディズニー・ジャパンが共同開発した日本のモバイルゲームです。キャラクターデザインを漫画「黒執事」で有名な柩やなが手がけていることでも話題になりました。
もともとディズニーヴィランズには根強いファンがおり、特にライオンキングのスカーは本作のリリース以前から擬人化イラストがSNSに投稿されるなど、人気のほどがうかがえます。
権利関係に厳しいディズニーが監修しているだけあり、きらびやかなイケメンが華を添えるただの乙女向けゲームにとどまらず、ディズニーファンのツボを突く小ネタが随所に仕込まれているのも斬新でした。
リリース日は2020年3月18日で、昨年上旬の段階ではまだ人気は下火でした。本作が注目を浴びる契機となったのは2020年6月に開催されたイベント、「フェアリーガラ～春を呼ぶ妖精たちの祝祭～」。このイベントではサバナクロ―寮の寮長、レオナ・キングスカラーがメインを張っており、棺やな描き下ろしの美麗イラストに女性ファンが沸き返りました。
「フェアリーガラ」はイベント開始から8時間で5憶円を売り上げ、見事セールスランキング一位を記録しました。
一体何故「ツイステッドワンダーランド」はプレイヤーの絶大な支持を集めたのでしょうか？魅力を徹底解説します。
ヴィランズの等身大の悩みに焦点をあてた学園もの
本作の魅力として挙げたいのは、魅力的なディズニーヴィランズを思春期まっただ中の学生に置き換え、その知られざる苦悩や葛藤に焦点をあてたシナリオです。
まず本作のあらすじを簡単に説明します。主人公（デフォルトネームはユウで変換可能、性別は明言されていません）は私たちが住む現実世界から、異世界ツイステッドワンダーランドに召喚されてきました。魔法の鏡を抜けてツイステッドワンダーランドにやってきた主人公は、怪しげな仮面を被った男に保護され、彼が学園長を務める魔法士育成機関、ナイトレイブンカレッジに通うことになります。
ナイトレイブンカレッジは全寮制の学校で、新入生は魔法の鏡に魂の本質を見抜かれ、各自適した寮に振り分けられます。ハーツラビュル寮は「不思議の国のアリス」、サバナクロ―寮は「ライオンキング」、オクタヴィネル領は「リトルマーメイド」、スカラビア寮は「アラジン」、ポムフィオーレ寮は「白雪姫」、イグニハイド寮は「ヘラクレス」、ディアソムニア寮は「マレフィセント」（あるいは「眠れるの森の美女」）がモチーフ。各寮所属のメインキャラクターのモデルも既出です。
全寮制の魔法使い学校であること、入る寮がその魂の本質で決定すること、寮ごとの紋章やオリジナル寮服があることから「ハリー・ポッター」との類似点を指摘する声もありました。全校行事において寮同士の派閥争いや対立が表面化するのも「ハリー・ポッター」の世界と似ています。
主人公は各章ごとに、各寮の寮長が巻き起こす様々なトラブルに巻き込まれていきます。このトラブルの最終局面がオーバーブロットであり、これは魔力を使いすぎたことによって対象が陥る暴走状態をさします。
オーバープロットを引き起こしたキャラクターは闇に侵され、インクが滴り落ちたようなダークなビジュアルへと変貌します。ヴィランとしての側面がより強く出る仕様ですね。
このオーバーブロットがキャラクターの心の闇やトラウマと密接に関連しているのも、クライマックスを盛り上げるドラマチックな要素なのは言及を避けられません。
一章はハーツラビュル寮のリドル・ローズハート、二章はサバナクロ―寮のレオナ・キングスカラー、三章はオクタヴィネル寮のアズール・ア―シェングロット、四章はスカラビア寮のジャミル・バイパー、現在進行中の五章はポムフィオーレ寮のヴィル・シェーンハイトがこのオーバーブロット状態に陥るのですが、彼らが何故そこまで追い詰められてしまったのか、オーバープロットに至るまでの過程を丁寧に掘り下げてプレイヤーの共感を集めています。
ちなみに本作のシナリオはキャラクターデザインも手がけた柩やなが担当しており、キレのいいギャグやコミカルな掛け合いでは、「黒執事」で培った美点が遺憾なく発揮されていました。
そしてディズニーヴィランズが抱える悩みは、私たちの身近に存在し、私たち自身にも大変覚えがあるものばかりでした。
リドルは医者の家系に生まれ、教育熱心な母親（いわゆる毒親）から過剰な期待をかけられていました。友人との外遊びも制限され勉強浸けの毎日、高圧的な母親の言い付けに背かず生きてきた彼は、「規律を守ることこそ絶対」として寮生を虐げる暴君になり、そのストレスからオーバーブロットを引き起こします。
第二王子のレオナは常に優秀な兄と比較され、貶められる環境で育ちました。結果どんなに努力をしても王にはなれず、自分は兄にかなわないと絶望したのがオーバーブロットのトリガーになります。
アズールは最もプレイヤーの同情を集めるキャラクターかもしれません。誰に対しても慇懃無礼な敬語がデフォルトの優等生である彼は、子供時代は肥満児な上にマイノリティな出自のせいでいじめを受けていました。いじめられた経験およびその時刻まれた劣等感は、壮絶な努力によって周囲を見返してきた彼の人格形成の根幹を成しています。
ジャミルはスカラビア寮長であるカリムの従者にして幼馴染。両親もカリムの家の使用人な為に幼い頃から「主人の顔を立てろ」と厳命され、常に同齢の友人に勝ちを譲ってきました。全力を出せない鬱屈とカリムへの劣等感が、彼のオーバーブロットのきっかけです。
毒親の心理的虐待、兄弟との確執、幼少時のいじめ、親から引き継いだ上下関係が歪めてしまった友情……。「ツイステッドワンダーランド」のヴィランズが抱えているのは、私たちが住む世界にもありふれた問題です。
ナイトレイブンカレッジ各寮はディズニーア二メーション作品からインスパイアされていますが、学生にリメイクした彼らの苦悩に、よりプレイヤー側が投影しやすい要素を付与し、新たな魅力と親しみやすさを引き出すのに成功しました。
悪のカリスマ、ヴィランズというとどうしても近寄りがたさが先行しますが、学園生活を謳歌する彼らのユニークな一面を多く見、その意外と「あるある」な悩みの克服を手助けすることで、さらに感情移入がはかどってキャラクターたちを好きになるのです。
原作を最大限リスペクトしたキャラデザ
次に「ツイステッドワンダーランド」の魅力として挙げられるのは、なんといってもキャラデザの素晴らしさです。美形キャラに定評がある柩やなが描くキャラたちが見目麗しいのはもちろん、ここで取り上げたいのは元ネタの生かし方です。
ナイトレイブンカレッジには学生の指導にあたるユニークな教師陣が欠かせませんが、彼らにも元ネタが存在します。最もわかりやすいのは「101匹わんちゃん」の悪女、クルエラがモデルのクルーエルです。
原作アニメーションのクルエラはダルメシアンの毛皮のコートを羽織り、黒いインナーを着て髪をツートンカラーに染めています。「ツイステッドワンダーランド」のクルーエルは男性に性別変更されていますが、両者を見比べてみれば、クルエラのエッセンスが巧みに盛り込まれているのがわかるのではないでしょうか。
原作でクルエラが持っていたパイプは教師ということもあってか、教鞭に変更されています。細かい遊び心にくすりとしますね。性格や嗜好もクルエラと共通しており、生徒を犬にたとえ指導を躾と称するなど、「101匹わんちゃん」視聴者へのファンサービスが万全でした。
他の教師たちも、元ネタを知ったら目からウロコが落ちます。
どうでしょうか、元ネタと比べてみるとリスペクトぶりが一目瞭然ですよね。引用しているのはビジュアルだけではありません。「美女と野獣」でヒロインに執拗に求婚した脳筋ガストンは赤ジャージの体育教師になり、守銭奴の魔術師だったドクター・ファシリエは、商魂逞しいミステリーショップのオーナー・サムに生まれ変わりました。
ドクター・ファシリエがヴィランとして活躍する「王子様と魔法のキス」はディズニーアニメ―ションの中ではそこまで知られていない作品ですが、大のディズニーファンの柩やなは、マイナー・メジャー問わず作品をクロスさせてキャラクターを再配置しています。
それぞれのキャラクターが立っているので元ネタを知らなくても楽しめ、元ネタを知っていればより楽しめます。
なぞらえているのはビジュアルだけではありません。メインキャラクターの一人であるエペルの名前は、英語のアップル、すなわち林檎である説が有力だとファンの間では考察が飛び交っています。ポムフィオーレ寮のモチーフが「白雪姫」で、エペルの実家が林檎農家だというのが根拠でした。今もって真相は不明ですが、各キャラクターの名前にもあふれんばかりのディズニー愛と、プレイヤーをニヤリとさせるメタファーがこめられているのは確かですね。
ファンタジーとリアリティの融合
本作の魅力として最後に挙げるのは、異世界ファンタジーでありながら私たちの住む世界を思わせるSNSが登場し、それが物語に大きく関わってくる面白さです。
ツイステッドワンダーランドの世界にはマジカメなるSNSが存在します。これはインスタグラムとほぼ同じもので、リアルタイムで写真や呟きをネットに投稿できる機能です。
本作のメインキャラクターの1人であるヴィル・シェーンハイトは、マジカメフォロワー500万人を超えるインフルエンサー。オクタヴィネル寮にてカフェを運営しているアズールが新作ドリンクの宣伝を狙い、ヴィルに差し入れを画策するエピソードも出てきます。ハーツラビュル寮のケイト・ダイヤモンドは自他ともに認めるマジカメヘビーユーザーで、ハッシュタグを付けた呟きを日常的に投下していました。
そしてハロウィンイベントでは、このマジカメユーザーたちが大混乱を巻き起こします。ナイトレイブンカレッジのハロウィンの模様がマジカメに投下されて拡散、何十万RТもされた挙句、マナー違反を辞さない迷惑極まるマジカメモンスターたちが全国から押しかけたのでした。
本イベントの少し前にツイステのコスプレイヤーが東京ディズニーランドの規約違反の撮影を行った事実が炎上し、運営による皮肉か、いや注意喚起ではないかと一部では囁かれました。
自撮り棒を所構わず伸ばす、立ち入り禁止の場所に入る、スイーツを撮影だけして捨てるなど枚挙に暇がない迷惑行為の数々も、現実においてインスタ映えを狙い、一線を越える人々と大差ありませんでした。実にシニカルな社会風刺です。
現在進行中の第五章「美貌の圧政者」ではヴィルの苦悩が語られています。
マジカメインフルエンサーであり、芸能活動もしているヴィル。
公私ともに華やかな彼の悩みは、その整い過ぎた容姿故に美形悪役のオファーばかりが殺到し、主人公の役に預かれないというものでした。一方ヴィルがライバル視するネージュ・ブランシュは、老若男女問わず好感度満点の素朴な愛らしさで、国民的アイドルの地位を欲しいままにしています。
ヴィルの元ネタは「白雪姫」において、美しく成長した娘を妬んで追放した女王です。「白雪姫」の女王は魔法の鏡に向かって世界一の美貌の持ち主を尋ねますが、ヴィルが問いを投げるのはスマホに内蔵されている人工知能・Siri、あらためMiraでした。
Miraの機能はSiriとほぼ同じです。ヴィルはことあるごとにMiraで「美しい」の単語に紐付くメンション数第一位を検索してはネージュに劣る現状を思い知らされ、どす黒い嫉妬を募らせていきます。Miraの元ネタは言うまでもなくSiriですが、名前は鏡（mirror）のもじりであり、おとぎ話の世界観と現代社会のリアリティを上手く絡めていました。
Miraの一件にしろマジカメモンスターにしろ、炙りだされるのはエゴサーチやインスタ映えに取り憑かれ、自己承認欲求が肥大した人間の醜さや滑稽さです。ネージュへの嫉妬からヴィルがとってしまった行動は私たちにも覚えがあり、共感性羞恥の痛々しさを禁じえません。
SNSと切り離せない現代社会への風刺をファンタジーの世界観に落とし込み、見事エンターテイメントに仕上げる手腕が、「ツイステッドワンダーランド」の奥深い魅力に繋がっているといえますね。
なおイグニハイド寮のメインキャラクターであるイデアは重度のネトゲ中毒のひきこもりであり、日常会話にネットスラングを混ぜてきます。見た目は文句の付け所ないイケメン、なのに中身は残念な落差が、女性プレイヤーのギャップ萌えを煽ったことは想像に難くありません。
本作のヴィランズはナイトレイブンカレッジで学ぶ学生であり、精神面ではまだまだ未熟で発展途上です。メンタルが脆く、人間関係の軋轢や試練に膝を折る光景もしばしば見られるでしょう。
それはプレイヤーにとってマイナスポイントにはなりません。決して完璧なだけの悪役ではないからこそ、その残念さが愛すべき個性に昇華され、推したくなる人気を確立したのでしょうね。