映画『閃光のハサウェイ』ハサウェイがテロリストになった理由とノア家の歴史
映画『閃光のハサウェイ』は、多くのガンダムシリーズに登場するブライト・ノアの息子であるハサウェイ・ノアが主人公です。
ハサウェイは、初登場の『Zガンダム』から『逆襲のシャア』までの間、主要キャラとしては描かれていなかったため、彼が主人公のストーリーに「なぜ?」と感じている方もいるのではないでしょうか。
しかし、それは私たちが各作品の主役目線で見ているから。ハサウェイの目線で彼・そしてノア家の歴史を紐解いていくと、ハサウェイがテロリストとなりMSを駆る理由に納得できるはずです。
そこでこの記事では、映画『閃光のハサウェイ』の主人公、ハサウェイ・ノアがテロリストになった理由とその背景を、ノア家の歴史と共に考察していきたいと思います。
なぜハサウェイはテロリストになったのか
映画『閃光のハサウェイ』において、主人公のハサウェイ・ノアは表向きは地球で植物監視官、裏では半地球連邦政府運動マフティーのリーダー、マフティー・ナビーユ・エリンとして連邦軍閣僚たちの暗殺活動を行っています。
地球連邦軍の将校、ブライト・ノアの息子にもかかわらず、です。
ハサウェイが始めて登場したのは『機動戦士Zガンダム』でした。当時7才、いたって普通で、アムロのことを「アムロおじさん」と呼ぶ一面も見せています。それ以降も登場時は「ブライトの息子」として描かれており、根っからの連邦側という印象です。
連邦軍に父やその友人を持ち、その活躍も見てきた彼がまさか「反連邦」になるとは思いませんよね。しかし、彼は『逆襲のシャア』の劇中で得た「ある体験」をきっかけに、彼なりの思想を巡らせるようになり、後のマフティーへと繋がっていきます。
周囲を顧みず思想を優先するほどの「ある体験」とは何か。そこへ至る道筋と、彼の思想の変化を探っていきましょう。
ノア家の歴史とハサウェイが見てきたもの
ハサウェイ・ノアのことを知るには、彼自身、そしてノア家の歴史を紐解く必要があります。
人が思い切った行動に出るとき、ほとんどの人は自分の思想と周囲の環境を天秤にかけるのではないでしょうか。連邦軍将校の息子として生まれ、連邦軍に知人を持っていた彼も、多くの葛藤を経てテロリストへ転身したと思います。
ただ、それは内面的なものであるため、周囲の人からすれば「突然なぜ?」という印象になるでしょう。
しかし、ハサウェイの視線で物語を見返すと、思想の変化に妥当性が見えてきます。そこで、ハサウェイ、そしてノア家の歴史をファースト時代から見返してみましょう。
ファーストガンダム時代|ブライト・ノアとミライ・ヤシマの結婚
ハサウェイは、ファーストガンダムにおけるホワイトベースの父と母、ブライト・ノアとミライ・ヤシマの長男です。この二人の結婚があったからこそ、マフティーたるハサウェイが生まれました。
ブライトとミライの結婚は、イレギュラー的なものでした。
じつは、ミライには元々カムラン・ブルームという婚約者がいたのです。しかし、ミライがカムランの人間性に対して失望し、婚約は破棄されます。
さらに、物語中盤からホワイトベースに配属されたパイロット、スレッガー・ロウとも恋仲になります。ところが、スレッガーは物語終盤に戦死してしまいます。
そして終戦。それからの出来事は詳しく描かれていませんが、ブライトと結婚し、ハサウェイ、そして妹のチェーミンが誕生することとなります。
もしミライが別の未来を歩んでいた場合、別のハサウェイが生まれたとしても、環境の違いからマフティーへとは至らなかったかもしれません。
『Zガンダム』時代|初登場・すでにアムロとの面識があった
ハサウェイがアニメに初登場するのは『機動戦士Zガンダム』です。
宇宙世紀0087年、まだ7才だった彼は、妹のチェーミンと一緒にグライダーのおもちゃで遊ぶ、普通の少年でした。
すでに、連邦軍のエースパイロット、アムロ・レイとは交流があったようで、アムロのことを「アムロおじさん」と呼んでいます。
また、当時の敵戦力であるティターンズに拉致され、人質に取られる経験もしています(その後、カミーユたちに救出された)。
連邦軍将校の息子ということもあり、普通の子どもよりも戦争に近い環境にあったのかもしれません。戦争を体験しているブライトやアムロを間近で見ていることで、彼らの思想に触れる機会もあったのではとも思います。
とはいえ、これらの経験が彼を戦争の道へと導くことは無く、普通の少年として成長していきます。
『逆襲のシャア』時代|戦争体験と想い人の死
宇宙世紀0093年、映画『逆襲のシャア』の中で、ハサウェイはその後の人生の道筋を決める「ある出来事」を経験します。
それは一目ぼれした想い人「クェス・パラヤ」の死です。
当時13歳、地球で暮らしていたハサウェイは、宇宙へ上がるシャトルの中でクェスと出会います。その後行動を共にするのですが、クェスはシャアの思想に同調、シャアの元でパイロットになり、敵対することに。
ハサウェイは、そんな状況下でも「クェスを取り返したい」と、ブライトが艦長を務める戦艦、ラー・カイラムにもぐりこみます。
ローンでプチモビルスーツを買いモビルスーツの練習に励み、自らモビルスーツで出撃するも目の前でクェスは戦死。さらにはクェスを撃破したパイロットを自らの手で殺してしまします。
このショックから、彼はしばらくの間茫然自失の状態に。さらにはうつ病を発症してしまいます。
戦争の中で体験した「理不尽な人の死」。それまで普通の少年だった彼は、これをきっかけに、戦争や人の死に対して思考を巡らせるようになります。
『逆襲のシャア』から『閃光のハサウェイ』に至るまで
『閃光のハサウェイ』は『逆襲のシャア』から12年後の宇宙世紀105年が舞台。ハサウェイは25歳となり、テロ組織「マフティー」のリーダー的存在へと変貌を遂げます。
クェスの死を経験した後の彼は、うつ病の治療をし、短い軍役を経た後に地球で植物監視官への道を歩みます。
また、詳しくは劇中で語られると思うのですが、『逆襲のシャア』後のハサウェイは、シャアが戦争を起こした根本的思想である「地球を保全する」という考えに共感を覚えるようになっていきます。そして、地球を私物化し続ける地球連邦軍の上層部に強い違和感を感じるようにもなります。
ハサウェイがシャアに共感を覚えたのは、純粋に地球を保全すべきだと思ったのか、連邦の体質が起こす戦争を悲しんだからなのか、それともクェスを殺した戦争が許せなかったのか、あるいはそのすべてか……。
12年間に渡る彼の内面変化は、一体どんなプロセスを経て、テロ組織に組みする最終的きっかけは何だったのか。その詳細は映画で語られることでしょう。
『逆襲のシャア』の小説版『ベルトーチカチルドレン』では歴史が異なる
『閃光のハサウェイ』映画化で議論されていることの一つに、アニメ版と小説版、どちらの未来が描かれるかという点があります。
なぜなら、『逆襲のシャア』は原作小説の『ベルトーチカチルドレン』と一部内容が異なるからです。
『ベルトーチカチルドレン』では、なんとハサウェイが自らクェスを手にかけています。ビームライフルが運悪く当たってしまったという形ですが、自ら想い人を殺してしまった衝撃は計り知れません。
原作にあたる小説版『閃光のハサウェイ』は、『ベルトーチカチルドレン』の設定に基づいた続編です。その映画化ということで、小説と映画のどちらをベースに描かれるのかに焦点が当たっているのです。
ハサウェイと関わる注目のキャラクター
『閃光のハサウェイ』でのハサウェイは、自らの信念に基づきテロ活動を行っており、すでに引き返せない段階にあります。
しかし、そんな心境の彼に対しても心理的影響を与える人物が登場します。それがヒロインのギギ・アンダルシアと、連邦軍将校のケネス・グレッグです。
そこで、信念の道を進むハサウェイに影響を与えるほどの2キャラクターについて簡単に説明したいと思います。
ギギ・アンダルシア|若干15歳の神秘的な少女
容姿端麗な金髪の少女。15歳。地球へ向かうシャトルの中でハサウェイと同席し、面識の無いハサウェイをマフティーだと見破ります。
予知能力の持ち主で、言動は神秘的かつ、つかみどころが無い印象。大富豪・カーディアス・バウンデンウッデンをパトロンに持ちます。予知能力がニュータイプに由来するものかは明確にされていません。
作中では、ハサウェイとお互いに興味を持ち、距離を近づけていくこととなります。そして、ハサウェイの過去と思想を語らせるキーパーソンともなります。
ケネス・スレッグ|ハサウェイに希望を見る唯一の親友
地球連邦軍の将校で、階級は大佐。地球へ向かうシャトルの中でハサウェイとギギに出会い、その後交友を持つようになります。
交友を持つに従って、ハサウェイに理想のパイロット像を重ねるようになり、人間的に惚れ込んでいる部分も見られるようになります。
フランクな性格と人生経験の豊富さから、ハサウェイの精神的兄貴分になる一面も。立場的に敵対しているため、ハサウェイは壁を作っている部分もありますが、戦争下でなければ腹を割って話せる仲になれていたのではないでしょうか。
カーディアス・バウンデンウッデンはカーディアス・ビストの関係者?
ギギ・アンダルシアのパトロンであるカーディアス・バウンデンウッデンに対し、一つの疑問が出回っています。
それは、『ガンダムユニコーン』の主人公・バナージの父にあたる、カーディアス・ビストの関係者ではないかということです。
しかし、小説版『閃光のハサウェイ』にはカーディアス・ビストを関連付ける記述は無く、『ガンダムユニコーン』でも同様に関連付ける内容はありません。
もし可能性があるとすれば、映画版での新要素として関連付けを行うかといったところ。『閃光のハサウェイ』の小説は『ガンダムユニコーン』よりかなり前の1989~1990年に発表されているため、ユニコーンが生まれたことによって設定が付け加えられる可能性は0ではないかもしれません。
ブライト・ノアのその後は描かれるのか
『閃光のハサウェイ』は、ノア家の人物が登場する最後の作品です。
ファーストガンダムからガンダムのパイロットたちを見守り続けてきた、ブライト・ノアにおいても、『閃光のハサウェイ』以後の姿を描いた作品は無いため、映画のラストで「その後」が描かれることを期待している人は多いのではないでしょうか。
映画のラストともう一つ、もし描かれる可能性があるとすれば、「UC Next100 PROJECT」の一環としてです。
「UC Next100 PROJECT」は、宇宙世紀を題材とした作品の充実・拡大を目的としているプロジェクトです。『閃光のハサウェイ』はUC105を舞台にしており、時系列的次作である『ガンダムF91』のUC123までは、ほぼ空白の期間になっています。
そのため、UC105~UC123の間に新たな作品が追加される可能性は十分にあると考えられます。多くの人たちの気がかりである、ブライト・ノアのその後に言及される可能性もあるのではないでしょうか。
ハサウェイは才能を持った男かそれとも無謀者か
ブライト・ノアの息子として生まれ、アムロ・レイとの交流やクェス・パラヤの死を経験してきたハサウェイ。彼がマフティーへと至る道は、宇宙世紀の戦争の歴史と、それによる理不尽を是としないハサウェイの正義感によって開かれたのではないでしょうか。
アムロやカミーユ、バナージなど、多くのパイロットは跳びぬけた才能で戦場を駆け抜けてきました。
果たしてハサウェイにもその才能があるのか、それとも無謀な努力家として戦うのか。そして、シャアの思想を受け継ぐに足る器なのか。
宇宙世紀100年の歴史は、数多のニュータイプたちが築いてきたものです。次の100年をハサウェイがどういった形でスタートするのか、劇場でその顛末を見守りましょう。